生活

おんぶ

私は毎年、寒い季節になると、必ずと言って良いほど、懐かしく思い出されることがあります。

それはあの昭和30年代の冬のこと、カメラを持って歩いていると、あちら此方で、幼子をおんぶしたねんねこ姿の人に沢山出会ったことです。

大人の背中にしっかりと一本の紐でくくられて、いつも一緒だという安心感と幸せ感が子供の心に溢れるのでしょうか、おんぶされた子供たちの表情は明るく無邪気そのものでした。

その度に、私にもおんぶされた時の暖かくて幸せだったあの時の優しいぬくもりが甦りました。

livingessay147txt其の幸せ感が忘れられず、いつのまにか「おんぶのぬくもり」をテーマにして、色々なおんぶの場面を撮り続けるようになりました。

恵比寿講やだるま市、縁日などに行くと、綿入れのねんねこ半纏で孫を負ぶったおばあちゃんやおじいちゃんが沢山来ていました。

屋台のおじさんおばさん達との楽しそうな会話も弾みます。

「今日はおばあちゃんにおんぶされて良いね!あたいはいくつかな?」と声かけられ、ねんねこの襟から乗り出して「ふたちゅ~」と嬉しそうに指を2本出して見せたりして、背中の子供も一緒になって話に興じる様子がほのぼのとして大好きでした。

或る時は、だるま市で見かけた親子の後姿には逞しい父親の愛を感じて、其の姿をパチリ!と写真に収めた時のあの感激はひとしおでした。

初市では日本髪の美しい女性に“きれいね~”と見とれる親子にカメラを向け近く寄った時に、ぷ~んと日本髪のびんつけ油の粋な香りがほのかに漂い、新春らしい清清しい気分になりました。

太陽が照る暖かい日は道端では、子供をおんぶしたお年寄りに沢山出会いました。

この頃は、大家族でしたから、若い人達が働いていて、小さな子供の子守は年寄りの役目だったのでしょう。

今思えば、外では小さな子を連れて歩くより、おんぶしている方が安全と同時に家族の心通わせる最高のコミニケーションだったのかもしれません。

雪の降った翌日、絶好の写真日和となり、早速外へ飛び出した日のことでした。

白髪頭のおばあちゃんが着物姿でおんぶした孫となにやら話しながら、雪道を高歯を履いて危なげに歩いてくるのに出会いました。

思わず「大丈夫ですか?すべるから気をつけて!」と声をかけてしまいました。

息を弾ませながら立ち止まり「珍しくよく降ったね!この子が雪が見たくて、外に出たがるんでしょうがないがね、びしょびしょになって、母ちゃんに怒られて泣いてるから、わしが背負って雪見に連れて来たのさ」と言いながら、優しい目をして笑っていました。

5~6歩すると高歯に雪が詰まり、今にも滑りそうになっては、「ほら!また雪のお団子だよ」と背なの子に見せながら、詰まった雪をコンコンと道端の石などにぶつけて落としてはまた歩いていました。

その度に背中の子はキャッキャと喜び、おばあちゃんも嬉しそうでした。

重そうな背中の子、びしょ濡れになった足袋、物ともしないおばあちゃんのしゃんとした様子に感心しつつ、私はもうハラハラどきどきの連続でした。

昔の人は本当に偉いなあ~!と頭の下がる思いでいっぱいでした。